飲食店の経営者が店舗の撤退や閉店を検討する際、重要なポイントの一つが「原状回復」です。原状回復とは、賃貸物件を退去する際に、契約時の状態に戻すことを指します。特に飲食店の場合、厨房設備や内装など、元の状態に戻すのに高額な費用がかかることがあります。原状回復はなぜ行わないといけないのか、現状回復の種類や費用に関して、知っておくべきポイントをいくつか紹介します。

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飲食店の現状回復とは?

飲食店の原状回復は、賃貸契約に基づいて行われるもので、店舗として使用していた物件を退去する際に、契約時の状態に戻す義務があります。

飲食店の現状回復とは何か

経営者が賃貸店舗を退去する際、賃貸契約に基づいた原状回復が求められます。現状回復には内装や設備の全面的な撤去と修復が含まれます。主には看板の撤去や床・壁・天井の修繕ですが、飲食店であれば厨房機器や照明などの設備の取り外し、空調機器のクリーニングなど、特有の作業が必要になることが多く、店舗の規模や状態に応じて多額の費用と時間がかかる場合があります。

飲食店が現状回復しなければいけない理由

飲食店が原状回復を行う必要がある主な理由は、契約上の義務、トラブルの防止、保証金の返還などです。賃貸契約では、テナントは物件を退去する際に契約時の状態に戻すことが求められ、この義務を果たす必要があります。多くは原状回復を適切に行うことで、保証金の全額または一部が返還されます。また、次にその場所を利用するテナントに対して清潔で整備された空間を提供し、トラブルの発生を防ぐためにも重要です。

現状回復の法律

民法第598条により、借主は物件に附属させた物を収去し、物件を原状に復して返還することができるとされています。また、民法第621条では、賃借人は賃借物に生じた損傷を原状に復する義務を負うと規定されています。これにより、借主は設置した設備を撤去し損耗を修復するという、退去時の原状回復の義務が発生します。

テナントでも経年劣化や通常の使用による損耗は現状回復の対象外とされますが、契約書の記載内容が優先されます。トラブルを避けるためにも、契約時に原状回復の範囲や費用負担について合意しておくことが重要です。

現状回復工事の費用

飲食店の原状回復工事の費用は、店舗の大きさや設備、作業内容などによって変わりますが、1坪あたり3~10万円程度が相場です。飲食店は、小売店やオフィスなどと比べて厨房や空調の設備、収納棚や家具などが多いため、原状回復費用が高くなる傾向があります。

移住用と事業用の現状回復の違いとは

住宅(居住用)の場合は退去してから原状回復を行いますが、店舗物件(事業用)の場合は、原状回復を終了してから退去することが多く、退去日までに原状回復がすべて完了している必要があります。損傷や損害は下記の2種類があります。

● 通常損耗:壁紙の色あせや床の軽い傷など、経年劣化による自然な変化や使用に伴う汚れや損傷のこと
● 特別損耗:設備を取り付けるために壁に開けた穴や、深いひっかき傷、煙草のヤニなど、借主の過失や不当な使用によって生じた損害のこと

2020年の改正民法では、テナントでも通常の使用や経年変化による通常損耗は貸主(賃貸人)の負担とされ、賃借人の故意や過失による特別損耗のみが賃借人の負担となります。しかし事業用賃貸では居住用と異なり、通常損耗の補修費用を賃借人が負担することが認められているケースもあります。

飲食店の現状回復の種類

飲食店の原状回復には、大きく分けて「スケルトン方式」と「居抜き方式」の二つの方法があります。それぞれにメリットとデメリットがあります。

スケルトン方式

スケルトン物件

スケルトン方式では、内装や設備をすべて解体・撤去します。これには間仕切りや天井、床だけでなく、エアコンや電気配線、排気ダクトなどの設備も含まれます。建物の骨組みだけの状態(スケルトン状態)に戻します。この方式には、次に入るテナントが空間を自由にデザインできるというメリットがあります。しかし、撤去には高額な費用がかかり、特にオーダーメイドで設置した設備や内装が多い場合、そのコストは大きくなります。

居抜き方式

居抜き方式では、物件で使用していた内装や造作物をそのままにして貸主に返却します。これにより、スケルトンにする工事が不要となり、費用が大幅に削減できる可能性があります。貸主にとっても原状回復工事の期間を空けずに次の入居者に入ってもらえるというメリットがあります。ただし、契約書によっては、居抜きでの引き継ぎが認められていない場合もあるため、契約内容をしっかり確認することが重要です。

原状回復工事の費用をおさえる方法

飲食店 点検する男性

飲食店は内装や設備が複雑なことが多いため、原状回復は他業種に比べて時間も費用もかかります。特に、排気ダクトや個室などの複雑な設備・内装は、後の原状回復工事で高額な費用が発生する原因となります。現状回復工事の費用を抑えるためには、店舗の設計段階から意識する必要があります。

排気ダクトなど複雑な設備をつけない

排気ダクトや大型の厨房機器など複雑な設備は、撤去とその後の復旧に多額の費用がかかります。専門業者が必要になり撤去に時間がかかる場合もありますので、どうしても設置したい場合は、できるだけシンプルな設計を心がけ、必要最低限の設備に留めることが重要です。

個室や小上がりなどの内装にしない

個室や小上がりは、プライベートな空間を提供するために人気があります。しかし撤去の面から考えると、原状回復作業が大掛かりになり多くの費用がかかります。できるだけシンプルなレイアウトを心がけ、必要以上に凝った内装や配置は避けるのが賢明です。オープンスペースを活用したり、可動式仕切りの使用も検討しましょう。

できる限り1階の店舗を選ぶ

エレベーターや階段を利用する必要がある上層階の店舗は、撤去作業が困難になる可能性があり、それに伴う費用も増加します。可能であれば1階の店舗を選ぶことで、撤去作業もスムーズに行えて、原状回復の負担を軽減できます。

なるべく床や壁を損耗させない

床や壁の損耗は、修復に多大な費用がかかるため、日頃からのメンテナンスを怠らないようにします。特に、飲食店では油や水による汚れが発生しやすいため、定期的な清掃が必要です。また、床にはマットを敷く、壁には保護シートを貼るなどの対策を取りましょう 。

油汚れなどをためない

厨房での油汚れは特に頑固であり、清掃に多くの時間と費用がかかります。原状回復工事の際に高額な費用がかかることがありますので、日々の清掃を徹底し、汚れを溜め込まないように心がけましょう。

まとめ

飲食店の経営者が直面する原状回復の課題は、店舗撤退や閉店の際に特に重要です。賃貸借契約と民法に基づき、原状回復義務があり、賃貸物件を退去する際には、契約時の状態に戻さねばなりません。店舗の大きさや設備によって費用は異なりますが、飲食店は排気ダクトや個室などの複雑な設備の撤去で高額になる傾向があります。また、床や壁の損耗を防ぐ努力と、日々の清掃徹底も疎かにしてはいけません。日々の行動が原状回復費用の削減につながることでしょう。